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ミス・ブランニュー・デイ/SOUTHERN ALL STARS

 一緒に歩いていると、すれ違う男が振りかえる・・・・・
 葉子と歩けば、そんなことはしょっちゅうだった。
 『なんであんな男と・・・・』
 ささやきが聞こえることもあった。

 葉子は、俺より随分身長が高かった。
 そして身長の差よりも、股下の差のほうがもっと甚だしかった。
 少し長目のワンピースがお気に入りで、よく、赤や茶色のパンプスをあわせていた。
 ウェーブのかかった長い髪は、いつも無造作に束ねられていた。
20050506225456s.jpeg
 最初に声をかけてきたのは葉子の方だった。
 俺は新宿駅構内のベンチで、一人で本を読んでいた。
 雑踏の中で本を読むのが好きだったのだ。
 ふと、立ち止まる人の気配がして顔を上げると、彼女がいた。
 正面に立って、上半身を折り曲げるようにしてのぞき込んでいる彼女を、俺は見上げた。
 葉子はとびきりの笑顔で俺の顔を確認すると、姉のように隣に腰掛けた。
 「何読んでるの?」
 顔を寄せて、本をのぞき込みながら、彼女は聞いた。
 「マルケス・・・・・」
 どきどきしながら、俺は答えた。
 たぶん、耳は真っ赤だったはずだ。
 「ふうん・・・・・ね・・・知らない人と話すのは嫌い?」
 葉子はまた聞いてきた。
 俺は、どう答えていいかわからなかった。
 黙っていると、彼女は手のひらを外側にして指を組み、伸びをした。
 そして、ひとつため息をつくと、ぽつんと言った。
 「私ね・・・・たぶん振られたの・・・・」
 唐突にそんなことを言われて、何事か言えるほど、俺は女性に慣れていなかった。
 「もう2時間、ここにいるのよ・・・・」
 俺は顔を上げた。
 「コーヒーでも飲む?」
 俺は言った。
 精一杯気遣ったつもりだった。
 ひょとしたら、美人局か・・・とも思ったが、それでもいいと思っていた。

 「これ聞いてみて」
 葉子は、待ち合わせのホテルのロビーに着いたばかりの俺に、ヘッドフォンを渡してよこした。
 サザンの「ミス・ブランニューデイ」だった。
 「私のことかな」
 彼女は聞いてきた。
 「どうしてそう思う?」
 なんと答えていいかわからないときは、聞き返すに限る。
 女はもう、答えを用意しているからだ。
 「私、映画を見るとき、女優の仕草しか見てないの、ストーリーはその仕草の意味を追ってるだけ。結局なんの話かわからないこともあるのよ」
 葉子はけらけらと笑った。
 驚いた周りの客が、一斉に振り向いた。
 と言うより、正面切って見つめるチャンスを待っていたようだ。
 視線に気づくと、彼女は少し赤くなって、うつむいた。

 「当たり前っていいよね」
 ホテルの喫茶室に場所を変え、コーヒーが来てから、葉子は言った。
 コーヒーのカップに入れたばかりのシュガーをかき回しながら、彼女は外を見つめていた。
 「子供の頃から、ずっと特別だったの、私、中学も、高校も大学も・・・・誰ひとり友達なんていなかったわ」
 「そうは見えないよ」
 「うそ、顔に書いてある。『そうだろうな』って・・・・」
 彼女は言った。
 「あなたといると、それが忘れられるのよ・・・・・特に、ベッドの中で・・・・」
 俺の反応を確かめるように、視線を俺に戻し、葉子は小さく笑った。

 いつも葉子は、シーツの上に、投網を投げたように髪を広げた。
 それが一番美しい自分の姿だとわかっているようだった。
 俺は死んでいるかのようなその姿を、頭の方から眺めるのが好きだった。

 葉子とは、短いつきあいだった。
 たいした思い出もない。
 好きだの嫌いだのと言うほど、長く会うこともなかった。
 間もなく、彼女は何の挨拶もなく、イギリスに行ってしまった。
 リバプールからのエア・メールが一通。
 葉子が俺の手元に残したのは、それだけだった。

 葉子が、テレビのニュースを読んでいるのを見たのは、それから5年後だった。
 彼女の髪は短くカットされていた。
 俺はどこかへ捨てられたはずの、葉子の豊かな髪の束を想った。
 彼女の頭の後から、ばっさり切られたままの髪の束だ。
 そして急に、その髪の束が、欲しくなった。
 今、どこにあるんだろう・・・・
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