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チャコの海岸物語/SOUTHERN ALL STARS

 貴美は、渋滞に巻き込まれて2時間も遅刻した俺を待っていた。
 まだ携帯電話など、なかった頃の話だ。
 半ば諦めて駅前のロータリーに車を入れると、駅正面の階段の脇に彼女は立っていた。
 夏らしい、純白のノースリーブに鮮やかなイエローのタイトスカート、ベージュのパンプスを素足に履いて、手には、なぜか野球帽を持っていた。
 クラクションを鳴らすと、貴美は笑顔で駆け寄ってきて、助手席に乗り込んだ。
 「いないかと思ったよ・・・・」
 俺は言った。
 「帰ろうかと何度思ったか知れないわ・・・・・・でも会えたからいいじゃない」
 彼女は言った。
 恋人でもない男を、2時間も待つ女とは、どういう女か・・・・・単純に喜んでいた俺は、疑問にすら思わなかった。

20050506161907s.jpeg
 車を出すと、貴美はすぐ道案内をはじめた。
 ナビがつとまる女は貴重だ。
 しかも地図が読める。
 車はスムーズに16号線を南下し、逗子へ向かった。


 昼前にはマリーナに着いた。
 「ほとんど奇跡よ!」
 貴美は叫ぶように言った。
 駐車場にもいい位置で停められ、彼女は上機嫌だった。
 テラスのあるカフェで、食事をしながら、俺と彼女はこの3ヶ月のことを話し合った。
 思えば奇妙な付き合いだ。
 知り合ってから、年に数回会うという関係を、もう7年も続けていた。
 別の女の子と遊んでいても、つき合っていた女の子と別れ話に涙しても、いつも最後に思うのは、どういう風に貴美に話そうか、ということだった。
 そしてそれは、常に笑い話となってしまうのだった。
 どんな女の子とつき合っても、彼女の笑顔は手放したくはなかった。


 「先月ねえ、青森に旅行したの・・・・・」
 唐突に貴美は言った。
 「誰と?」
 俺は何気なく聞いた。
 「男の人よ」
 「二人でか?」
 「そう・・・・・・」
 言って彼女は、窓の外を見た。
 心臓が飛び跳ねた。
 自分の迂闊さに、愕然とした。
 俺は7年もの間、この女のことを、何も解っていなかったのだと・・・・・。
 好きだと一言も言わない男を、2時間も待つ女は、別に俺だけに笑顔を見せるわけではないのだ。
 「もちろん部屋は別よ」
 そんな話を誰が信じろと言うのだ。
 「でもねえ・・・・・・・・・」
 その後の話はほとんど聞いていなかった。
 ただ、ドギマギしながら相づちを打っていただけだった。


 「いこう?」
 貴美はいつもの笑顔で、外を見ている俺を促した。
 店を出て、背の高いヤシの並木を歩きながら駐車場に向かっていると、彼女は腕を絡めてきた。
 「どうしたの?元気ないね・・・・」
 「いや別に・・・・・」
 俺は遠くを見ながら言った。
 そのとき彼女の意図がわかった。
 報復は成功したのだ。


 海岸沿いの細い道を通り、あちこち寄り道しながら横横線に乗って横浜へ・・・
 中華街で早い夕食にした。
 ここでも駐車場を探すのに苦労はなかった。
 中華街のはずれの店で、お勧めの水餃子を食べながら、俺は貴美を見つめていた。
 「こんな事ってある? 日曜日に、八王子から16号線を通って三浦半島を半周して、中華街で6時に夕食よ!」
 彼女は言った。
 「みんな君と一緒だからさ」
 俺は言った。
 「キタムラでも、フクゾーでも何でもいい、ひとつプレゼントがしたい」
 「どうして?」
 彼女は目を丸くして言った。
 「俺の負けだよ。悪かった・・・・・・・」
 俺はテーブルに手をついて頭を下げた。
 「なによ・・・気持ち悪い・・・・」
 彼女は笑って言った。


 結局貴美は、遠慮しながらも、ニューグランドにある「GUMP'S」で、きれいなヌメ皮の二つ折りの財布を選んだ。
 そして俺に、「ポピー」でレジメンタルを選んでくれた。
 目にしみるような、鮮やかなブルーが、美しかった。


 帰りは、ラジオを聞きながら、無言で車を走らせた。
 シフトを替えるとき以外は、貴美の手はずっと俺の手の中にあった。
 いい歳をして、こんな恋をするとは思わなかった。


 二人が初めて朝を迎えたのは、それから半年後のことだった。
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