|
涙のキッス/SOUTHERN ALL STARS
|
|
2008/06/10(Tue)
|
|
鎌倉はよく晴れていた。
6月の陽光が、木々を照らしている。 昨日降った雨の滴が、きらきらとまぶしかった。 「結婚したのね・・・・・」 並んで歩きながら、祐子は言った。 あまり久しぶりなので、お互い、腕を組むのも照れくさかった。 「ああ、子供も生まれるよ」 残酷な言葉だった。 祐子は子供を産めない。 わかっているが、彼女は余計な気遣いをもっとも嫌う。 俺がそのことを隠しておこうとするほど、きっと彼女は傷つくことになる・・・・・ ![]()
祐子は黙って歩いていた。
気温が上がってきて、土の匂いが、あたりに満ちてきた。 古都を歩くには人が多すぎたが、明月院のあじさいは綺麗だった。 押し合うほどではないが、じっくり見るわけにも行かない。 「こうやって人混みの間から見ると、こっちが見られているみたいね。あじさいって、顕微鏡で見た、昆虫の複眼に似てる・・・・」 もともと、変なことを言う女だった。 俺の裸体を見て、「出来損ないのダビデ」と言った女だ。 「あれからずっと、待ってたのよ。電話・・・・・」 祐子は言った。 俺が電話嫌いなのは知っている。 だから、よほど逢いたくならないと、俺からかけることはなかった。 「かけようとは思っていたんだよ」 俺は言った。 「そうね、私も電話嫌いだから、わかるよ。逢いたいって言うのができないのよね。面と向かってなら言えるのに・・・・」 彼女は俺の手を取り、強く握ってきた。 多くの点で、祐子と俺は、似たもの同士だった。 趣味も考え方も、そして臆病さも。 ただ違うのは、男と女だったことだ。 俺は愛し、彼女は恋した。 「これが最後と思いながら、もう4年だね」 江ノ島が見える砂浜を歩きながら、祐子は言った。 波の音に負けないように、声を張り上げながら・・・・・・ 「一生かもしれないよ」 俺は笑っていった。 「また来ようね」 彼女は、波打ち際までかけていきながら、叫んだ。 ふたりとも、もう30を超えている。 全速力で駆けたりはしない。 片手に持ったパンプスを大きく振って、彼女は何か言った。 ゆっくり、彼女の方へ歩きながら、俺は「涙のキッス」を口ずさんだ。 波音に消されて、歌声は届かないだろうと思い、大きな声で歌ってみた。 祐子の笑顔が、近づいてくる。 「へ・た・く・そ」 彼女は、顔を突き出してそういうと、背中を向けた。 俺は彼女を後から抱きしめ、耳元にキスをした。 服の上からでも、彼女の体のラインがわかる。 大きな胸が、俺の腕の下にあった。 しばらくそうやっていると、 「バカ」 と言って彼女は体を離した。 体は素直に反応する。 昔と違うのは、お互いに顔を赤らめるほど、子供ではなくなったことだった。 「もうパパなのよ」 祐子はからかうように言った。 「わたし、あなたの娘になろうかな」 そう言って彼女はきびすを返し、海に向かって歩き出した。 白い波が、彼女の足を洗う・・・・・ |
|
コメント |
|
コメントの投稿 |
|
|
|
|
|
トラックバック |
|
トラックバックURL
→http://amber0502.blog9.fc2.com/tb.php/26-44c9faec |
|
| メイン |
|

