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涙のキッス/SOUTHERN ALL STARS

 鎌倉はよく晴れていた。
 6月の陽光が、木々を照らしている。
 昨日降った雨の滴が、きらきらとまぶしかった。
 「結婚したのね・・・・・」
 並んで歩きながら、祐子は言った。
 あまり久しぶりなので、お互い、腕を組むのも照れくさかった。
 「ああ、子供も生まれるよ」
 残酷な言葉だった。
 祐子は子供を産めない。
 わかっているが、彼女は余計な気遣いをもっとも嫌う。
 俺がそのことを隠しておこうとするほど、きっと彼女は傷つくことになる・・・・・

20050506162133.jpeg
 祐子は黙って歩いていた。
 気温が上がってきて、土の匂いが、あたりに満ちてきた。
 古都を歩くには人が多すぎたが、明月院のあじさいは綺麗だった。
 押し合うほどではないが、じっくり見るわけにも行かない。
 「こうやって人混みの間から見ると、こっちが見られているみたいね。あじさいって、顕微鏡で見た、昆虫の複眼に似てる・・・・」
 もともと、変なことを言う女だった。
 俺の裸体を見て、「出来損ないのダビデ」と言った女だ。
 「あれからずっと、待ってたのよ。電話・・・・・」
 祐子は言った。
 俺が電話嫌いなのは知っている。
 だから、よほど逢いたくならないと、俺からかけることはなかった。
 「かけようとは思っていたんだよ」
 俺は言った。
 「そうね、私も電話嫌いだから、わかるよ。逢いたいって言うのができないのよね。面と向かってなら言えるのに・・・・」
 彼女は俺の手を取り、強く握ってきた。
 多くの点で、祐子と俺は、似たもの同士だった。
 趣味も考え方も、そして臆病さも。
 ただ違うのは、男と女だったことだ。
 俺は愛し、彼女は恋した。

 「これが最後と思いながら、もう4年だね」
 江ノ島が見える砂浜を歩きながら、祐子は言った。
 波の音に負けないように、声を張り上げながら・・・・・・
 「一生かもしれないよ」
 俺は笑っていった。
 「また来ようね」
 彼女は、波打ち際までかけていきながら、叫んだ。
 ふたりとも、もう30を超えている。
 全速力で駆けたりはしない。
 片手に持ったパンプスを大きく振って、彼女は何か言った。
 ゆっくり、彼女の方へ歩きながら、俺は「涙のキッス」を口ずさんだ。

 波音に消されて、歌声は届かないだろうと思い、大きな声で歌ってみた。
 祐子の笑顔が、近づいてくる。
 「へ・た・く・そ」
 彼女は、顔を突き出してそういうと、背中を向けた。
 俺は彼女を後から抱きしめ、耳元にキスをした。
 服の上からでも、彼女の体のラインがわかる。
 大きな胸が、俺の腕の下にあった。
 しばらくそうやっていると、
 「バカ」
 と言って彼女は体を離した。
 体は素直に反応する。
 昔と違うのは、お互いに顔を赤らめるほど、子供ではなくなったことだった。
 「もうパパなのよ」
 祐子はからかうように言った。
 「わたし、あなたの娘になろうかな」
 そう言って彼女はきびすを返し、海に向かって歩き出した。

 白い波が、彼女の足を洗う・・・・・
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