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希望の轍/SOUTHERN ALL STARS

 深夜のコーヒーショップに彼女はいた。
 頬杖をついてカウンター席に座る彼女は、あのころよりだいぶ大人びて見えた。
 ドアの前で立ち止まった俺に、彼女は視線を向け、気が付いた。
 俺は片手を挙げ、ドアを開けた。
 「どこに行ってたのよ・・・・」 
 彼女は言った。
 俺が彼女の部屋を出たのは・・・・・・5年前だ。
 「あちこちね・・・・・・」
 そういって彼女のカップの中をのぞいた。
 冷めたコーヒーが3分の1ほど入っている。
 「これ返してよね」
 俺の背広のポケットに手をのばし、彼女は万年筆を引き抜いた。
 彼女は少し酔っていた。
 そうあのときも・・・・・・・

20050506162012s.jpeg
 「何書いてるの?」
 ノートをのぞき込みながら俺は尋ねた。
 コンパの帰り、酔い覚ましに喫茶店に寄ったときだった。
 他に客はいなかった。
 「酔っぱらいの詩よ・・・・」
 投げやりに加奈子は言った。
 「俺のこと?」
 ふざけて俺は言った。
 コンパの続きのように・・・・
 彼女は横目で俺を睨み、にやけた俺の鼻をつまんで、
 「うるさい」
 と言った。
 彼女自身も酔眼だった。
 「誰が他人のことを書くか。あたしはあたしの事しか書かない」
 「よし、俺も書く」
 そう言って俺は、加奈子のノートと万年筆を取り上げ、書き始めた。

  つかれた心臓は夜をよく眠る
  私はよく眠る・・・

 「朔太郎じゃない!
 盗作!」

 加奈子は俺から万年筆を取り上げた。

 目が覚めたら、俺は加奈子の部屋にいた。
 それから約一週間、俺は彼女の部屋に居続けた。
 二人とも学生で、夏休みで、アルバイトも、友達との約束もなかった。
 二人ともほとんど服を着ている暇がなかった。
 合間に詩を書いた。
 一冊のノートと、一本の万年筆で、二人は書きつづった。
 二人の書いた詩が、100を超えたとき、俺は不意に笑い、万年筆を置いた。
 加奈子は眠っていた。
 服を着て、その万年筆をポケットに入れ、俺は部屋を出た。

 引き抜いた万年筆のキャップをカウンターに立て、ボディを手に持って、彼女はペン先を眺めた。
 渋い濃緑のボディを持つ手には、真っ赤なマニキュアが塗られていた。
 バッグからメモ帳を取り出すと、彼女はある損害保険会社の名前を書いた。
 「もうだめね、このウォーターマンはあなたのものよ」
 彼女は言った。
 「大切に使ってくれているようで安心したわ、しっかりあなたの書き癖が付いているし・・・・」
 そう言って笑った。
 笑顔は昔と同じだった。

 彼女は続けて、サザンの「希望の轍」の一節を書き、手帳を破って、万年筆と一緒に、俺の手のひらの上に置いた。

 俺には、その続きを書くことはできなかった。
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