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いとしのエリー/SOUTHERN ALL STARS

 毎日毎日、レコードに埋もれる日々・・・・
 レコード室から、リクエスト曲を探し、ディレクターのスタンバイがかかると、頭出し。
 慎重に逆回転させ、曲の頭を見つけたら、そこから4分の3回転戻して、キューを待つ・・・・・・
 先輩の紹介ではじめたアルバイトは、小さなローカルラジオ局のDJ番組のアシスタントだった。
 おもな仕事は、レコード探しと曲の頭出しである。
 今はもう見かけることがなくなったレコードを、手動で頭出しするのである。
 ヘッドホンを片方の耳に当て、曲の先頭を探す。
 慣れればたいしたことはないのだが、数多の曲の中には、何度やっても難しい曲もある。
 そんな中の一曲が、「いとしのエリー」だった。

eris.jpg
 「またやったな、何度言えばわかるんだ」
 ディレクターの罵声が飛んだ。
 「いいか、リスナーは、聞き慣れたタイミングで、ラジオの向こうで待っているんだ。早すぎても遅すぎても、不快感を与えることになるんだよ」
 もう何十回聞いたかわからない、得意のせりふだった。
 飯をおごってくれても、一緒にのみに行っても、彼は番組のことしかしゃべらなかった。

 「いいのよ、あの人は、自分の若い頃のことを言ってるんだから・・・・」
 そう言って慰めてくれるのは、局アナの先輩、真理だった。
 同じサークルのOGである。
 今でこそ花形であるが、当時は、テレビ局のアナウンサーが、少し人気が出始めた程度で、ラジオのアナウンサーなどは、バスガイドとたいして変わらない程度のステイタスである。
 「でもこの曲だけは、何度やってもだめなんですよ。怒られるのも当然なんです」
 俺は言った。
 番組終了後の控え室である。
 ほかには誰もいなかった。
 次の番組は定時のニュースであるから、出演者は彼女だけである。
 「それなら、曲を好きになる事ね、それしかないわよ」
 椅子から立ち上がりながら、彼女は言った。
 それから、
 「私も次で上がりだから、下で待ってなさい」
 そう言って、彼女は金魚鉢の中にはいっていった。
 俺は、何のことだかわからなかったが、怖いOGの命令である。
 従うしかなかった。
 真理は、大学のサークルに時々来ては、我々をしごいてきた。
 一度などは腹式呼吸ができない俺を、机の上に仰向けに寝かせ、平手でお腹をバンバン叩いたこともあった。

 深夜のロビーには、人はいなかった。
 短いニュースなので、20分ほどで彼女は降りてきた。
 「さ、行こうよ」
 と彼女は言った。
 俺の背中を押して、さっさと歩き出す。
 「どこに行くんですか?真理さん」
 と、おそるおそる俺は聞いた。
 「そうね、ご飯食べてからと思ったけど、もうやっている店は少ないから、私の部屋においで」
 彼女は命令口調で言った。
 確かに12時を回っている。
 しかし、ひとり暮らしの女性の部屋に行くのは、はじめてであった。
 「え・・・・いいんですか」
 おずおずと俺は聞いた。
 「なに考えてんのよ。特訓よ!」
 元気よく彼女は言った。

 「おなか空いたでしょ、なんか作るね。レコードとプレーヤーはそこ。電源はこれ。ハイ!頑張って!」
 と、てきぱきと俺に指示すると、真理はキッチンに入っていった。
 仕方なく俺は、ここが女性の部屋であることはひとまずおいて、練習にかかることにした。
 電源を入れる。
 ターンテーブルを回すためのスイッチを入れる・・・曲が始まると、すぐスイッチを切り、回転を止める。
 慎重に逆回転させ、頭を探す・・・・・・「チラチラ・・・」というシンセの効果音、フェードインしてくるもっとも難しいタイミング・・・・・・
 「ハイ、スタンバイ!」
 急に後ろから、真理の声が聞こえた。
 何回かの失敗のあと、コツがわかったような気がして、今度は大丈夫という自信があった。
 彼女は右手をいっぱいに開いて立っていた。
 ディレクターのするように、腰に手を当て、開いている右手を閉じ、俺を指さした。
 「キュー」
 ターンテーブルのスイッチを入れると、思った通りのタイミングで、「いとしのエリー」が流れてきた。

 「できたじゃない」
 真理は、自分のことのように喜んでくれた。
 「はい、なんかわかったような気がします」
 照れながら、俺は言った。

 「さ、できたわよ。運んで!」
 キッチンから真理の声がした。
 「なんにもないから、とりあえずうどんね」
 彼女は言った。しかしそのうどんは素晴らしくうまかった。
 「うまいですね」
 と俺は言った。
 瞬く間にうどんは半分なくなっていた。
 「お代わりあるわよ」
 彼女は、嬉しそうに微笑んで言った。
 「私は讃岐の女よ、うどんがあればご飯はいらない」
 といいながら、真理は、日本酒の入ったコップを呷った。
 何しろ、男5人を向こうに回し、全員のみつぶしたという豪傑である。
 酒豪が多いサークルの中でも、「晩酌一升、湯上がり二升、腰を据えれば一斗酒」とまで謳われ、伝説と化している彼女だ。
 この程度はお茶代わりであろう。
 「いまでもうどんは、実家から送ってもらうの、これじゃないとだめなのよねえ」
 熱いうどんと、酒で上気した顔は、大人の女の色気があった。

 「この前のことは秘密よ・・・・忘れてね」
 1か月後、真理とディレクターの婚約パーティーで、彼女は一瞬だけ俺の隣に座って、耳元でささやいた。
 その日の彼女は、日頃の豪快さは影を潜め、美しく、華やかだった。
 『言えるわけがないし、信じてももらえないだろう』
 俺は、心の中でつぶやいた。
 いつもより酔いの回りが早い・・・・
 女はみんな同じことをいう。特に不可解な行動のあとには必ず・・・・・
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いとしのエリー
いとしのエリーいとしのエリー#『いとしのエリー』は、高見まこ作の女教師と生徒の恋愛を描いた漫画作品(連載:1984年 - 1987年)。1987年 国生さゆりの主演で映画化された。#サザンオールスターズの楽曲(3枚目のシングル)。本項で記述。----『いとし

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