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Bitches Brew/Miles Davis

 「この人が、ここに宿泊するはずだから、チェックインしたらこれを渡してほしい」
 封筒の宛名を示しながら、俺は手紙をフロントに預け、会社に向かった。

MILESs.jpg

 今日までの出張で、このホテルにいた。
 夕べ、電話でそのことを話すと、智子はすぐさま、
 「じゃ、明日行くから、まってて!」
 と言った。
 「予約は一杯だと言っていたよ」
 俺が言うと、智子は、
 「まかせて、そこはウチ(の会社)の提携先だから、なんとか押し込めるわよ」
 と言って笑った。
 相変わらず押しの強い女だ。


 智子は会社が引けてから、新幹線で来るはずだった。
 俺は、会社に報告をすませ、車でホテルにとって返した。
 ラジオから、懐かしいマイルスのメロディーが流れてくる。
 彼女が独身だった頃、ふたりで待ち合わせた喫茶店で、よくかかっていた曲だ。
 その店も、今はもうない。


 フロントで確認すると、すでに手紙は渡されていた。
 部屋は、それぞれシングルがあてがわれていた。
 自分の部屋に着き、荷物を置くと、俺は智子の部屋に向かった。
 彼女は、着替えを終えて、Tシャツと短パンになっていた。
 「手紙ありがとう・・・・うれしかったよ。ごめんね、シングルしか取れなくて・・・」
 「いいよ、第一取れただけでもすごいと思うよ」
 俺は言った。
 「じゃ部屋見せて」
 智子はそう言って俺の部屋に向かった。
 俺の部屋は、よく確かめると、給水塔の陰の、ひどい部屋だった。
 狭いし、うるさい。
 ただ寝るだけならいっこうにかまわないが、朝の眺めが台無しだ。
 「これじゃだめね、じゃ荷物と鍵持って!」
 彼女は言って部屋を出ようとした。
 「どうして?」
 思わず、俺は聞いた。
 「どうせここは使わないでしょう?・・・・・私にひとりで寝ろって言うの?」


 「段取り女」と言うのが彼女のあだ名だった。
 即断、即決・・・みんなで旅行などと言うと、宿の手配からコースまで自分で作り、至れり尽くせり、最後の写真の焼き増しまで、完璧にこなし、誰からも文句は出なかった。


 「だからって、不倫の段取りまでするか?」
 俺は言って笑った。
 智子の部屋は、シングルとはいっても、セミダブルベッドが置いてある大きな部屋だった。
 「これが大変なんだなあ・・・・旦那への言い訳、アリバイ作り・・・・会社にも悟られないようにしなきゃならないし・・・・・楽じゃないのよ」
 「そりゃそうさ・・・・よくやるよ」
 ふたりで笑った。
 共犯者の笑いだ。


 すでにワインと食事が届き、遅い夕食が始まっていた。
 フルボトルが一本空く頃には、彼女はほほを染め、激しく回転していた頭脳を止めた。
 たおやかな姿になる、この瞬間を知っている俺は、それだけで激しい後悔におそわれる。
 なぜ、手放してしまったのかと・・・・・


 ホテルで朝を迎えるときは、日の出前に目覚めるべきだ。
 でなければホテルに泊まる意味はない。
 枕を背にあてがい、ふたりで朝日を浴びていた。
 「この瞬間(とき)だけが、安らぎなのよ・・・・」


 智子は言った。


 異存はない。


 限りがあるだけだ。
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