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波乗りジョニー/SOUTHERN ALL STARS

 自転車で汗をかいた後、シャワーを浴びて缶ビールを空けた。
 ビールは最初の一杯しかいらない。
 一気に飲み干して、籐椅子に座り、手紙を手に取った。
 4枚にわたって、小さい字でびっしり書かれている、長い手紙だった。
 強い夏の日に当たりながら、俺はその手紙を読んだ。
 中身はどうということはない。
 単純な近況報告だった。
 ただ、結婚しているくせに、差出人は相変わらず旧姓で書いてある。

20050506162416s.jpg

 千秋が結婚したのは4年前だった。
 婚約したと聞いてからは、連絡をとっていなかった。
 大した関係ではなかったから、彼女もそれっきりだった。
 だから、この長い手紙の意図がわからない。

 『今年は台風の影響で、いい波が来ているよ』

 こちらに移り住んでからは、ボードに乗ることもなくなった。
 海は目の前にある。
 波は外洋から直接打ち寄せる。
 湘南など問題にならない。
 けれど、海へ行く気にはならなかった。
 ボードはもう人にくれてやったし、感覚も忘れかけている。

 『玲は結婚して関西の方に行っちゃったから、最近は遊ぶ相手も少なくなって・・・』

 むかしの仲間の様子は詳細だった。
 ひとりひとり、きちんと書いてある。
 書いてないのは自分のことだけだった。

 『P.S. こちらに来ることがあったら、連絡ちょうだい』

 続けて電話番号が書いてあった。
 千秋が新居を構えた場所とは違う市外局番だった。
 「離婚」という言葉が頭をかすめた。
 あり得ない話ではない。
 かつて千秋は、電話をかけてきても、用件だけ話すと、さっさと切ってしまう女だった。
 それが、こんな回りくどい手紙を書いてよこしたのだ。

 風が強いせいで、千秋は俺の耳元で叫ぶように言った。
 「どーしてここに来たの?」
 「ここに来たかったんだ。ここに来るには、オマエがいなきゃ・・・・と手紙を見て思ったんだ」
 俺も、叫ぶように答えた。
 長い髪を押さえて、俺を見つめながら、千秋は微笑んだ。
 彼女も、すっかり日焼けが落ち、透き通るような白い肌になっている。
 鼻梁にわずかに残ったそばかすが、日焼けの名残だ。
 「来て欲しかったのかもしれない・・・・来て欲しくなかったのかもしれない・・・・」
 千秋は言った。
 こんな日でも、この海岸にはあちこちに人がいる。
 ボードに乗って海に浮かんでいるヤツもいる。
 かつてはあの中のひとりだったのだ。
 「行こう・・・もうここは、俺たちが来るところじゃない」
 俺は言った。

 確かに千秋は離婚していた。
 赤茶けていた髪は、漆黒になり、丁寧な化粧はよく似合っていた。
 俺はあの頃と同じように、彼女を海へ誘い、何も言わずに帰った。
 彼女もあっさりと、手を振った。

 たぶん、お互い何かを確かめようとしたのだと思う。
 何かは、わからない。
 何かにけりをつけ、どこかへ行くために、お互いを必要としたのだ。

 また、好きだといわなかった。
 必要とするときに会いに行くために、俺は一生言うことはないだろう。
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