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TSUNAMI/SOUTHERN ALL STARS

別にときめきを期待して同窓会に出席を決めたわけじゃない。
歳月とは等しく残酷なものだ。
可憐な少女の面影も、深く刻まれたしわの中に埋め込まれてしまうのが世の常だ。
それに高校時代に親しかった同級生の女性など片手で足りる。
淡い期待など抱きようがない。

手
☆ ☆ ☆ ☆ ☆

定刻よりだいぶ早くついたので、会場はまだ半分も埋まっていなかった。
よく会っているやつもいたが、大半は誰だかわからなかった。
名札を見て思い出すのがやっとだ。
特に女性は、そもそも知らない人ばかりだ。
ひとしきり挨拶をしたあと、俺は入り口近くにおいてあった返信はがきを眺めていた。
返信者の近況などが、ざっとではあるが読み取れ、おもしろかったのだ。
意外なところに住んでいたり、よく知っているもの同士がくっついて、婿養子になったりしている。
俺は無意識に一人の女性の名前を追っていたが、クラスが何組だったか忘れていて、まだ見つけることはできなかった。

ふと入り口に人の気配がしたので、その方を見た俺は、目を疑った。
紗江子がそこにいた。
一目でわかった。
そして間違えようがないその笑顔は、俺の心臓をわしづかみにした。
「おー・・・おー・・・おー」
言うべき言葉が見つからず、どうしていいかもわからず、俺はとりあえず手を差し出した。
紗江子はしっかり握り返してしてきた。

「変わらないね」
着席するなり、俺は言った。
テーブルはくじ引きだったが、紗江子も俺も同じテーブルだった。
「そういえば、卒業した頃電車で一緒になったことがあったよね」
紗江子はそんなことを覚えていた。
「さっき思い出したんだけど、すごい偶然だよね」
だいぶ記憶違いをしている。
その頃東京に進学したばかりの俺が、どうして300㎞以上離れた町から出る電車に偶然乗るのだ。
しかも平日に。

そのあと何を話したのか、出だしに喜んでビールを飲んでいた俺は、深夜には泥酔していたので細かくは覚えていない。
「私、十数年前に離婚して、今はこっちにいるの」
と言っていたこと、
「携帯番号教えて」
といわれて、番号を交換し、再会を約束したことは覚えている。
そして、紗江子は1次会で姿を消した。

30年の歳月は、何を変え、何を守ってきたのだろう。
次の日、俺は考えていた。
たとえば、紗江子がそこいらの女と同じように年をとっていたら・・・
同窓会の会場で、ろくに話もしなかったら・・・
そもそも来なかったら・・・
しかし、もちろん結論など出るはずがなかった。
そんな仮定は、「そうじゃなかった」という事実の前では無意味だ。
そして、ふと気がつくと、携帯に受信記録があった。
紗江子からだった。
「また逢おうね」
と、同窓会の別れ際に紗江子は言っていた。
よくある社交辞令だと思っていた俺は、どうしていいのかしばらく逡巡した。
30年以上前に恋した女性が、昔と変わらぬ笑顔で目の前に現れる。
しかも離婚していて、少し足を伸ばせは、いつでも会える距離にいる。
そんな都合のいい再会が・・・・あるのだ。
そしてなにより俺自身が、自分自身の想いの強さにとまどっている。

電話の紗江子は、なにも変わらなかった。
そして、社交辞令ではなく本当に逢おうと言ってくれた。
仕事の都合をやりくりして別の町で待ち合わせ、俺は紗江子と逢った。

「卒業した年の5月のこと、覚えてたんだね」
俺は言った。
同窓会でも違うことは指摘していたが、詳しくは話さなかった。
「偶然だと思っていたけど、違うの?」
詳しく覚えていないのも無理はない。
その頃は俺の一方的な恋だったのだから。

二人でいろいろな話をした。
30年以上の空白を埋めるのには、とうてい足りない時間だった。
過去の恋愛や、今のこと・・・・・病気や仕事のこと、家庭のこと・・・・
いろいろ話したはずだった。
けれど俺には、何か物足りなさが残る。
なにも話せなかったという思いだ。
言いたいことがたくさんあるのに、なんと言っていいか思いつかない。
かつての気持ちは伝えた。
だが、今はどうなのだ?
高校生のように、人生が単純じゃない。
伝える言葉も、相応に難しくなっている。

「また会えるといいね」
帰りがけ、紗江子は言った。
『会うさ』
心の中で俺は言った。
運命なんて信じないけれど、彼女の強さは信じている。

そして、生きていることは、希望に満ちあふれているものだと知った。

「もう遅いから、泊めてくれるか?」
紗江子の宿泊先まで送っていくとき、俺は言った。
自分でも少し驚いた。
もちろん30年もの間、紗江子だけを想ってきたなんて、きれい事は言わない。
いろいろな人と、いろいろあったけれど、あまり実り多いものではなった。
結局、想いをつたえる一言が言えずに、どのくらい後悔してきたんだろう。
恋愛から離れた20年の間に、俺は確かにずるくなっている。

「いいよ」
と、紗江子は言った。
俺は泊まるつもりはない。
紗江子は知ってて言ったのだろうか?
紗江子のほんとうの心は、幾つになっても朴念仁の俺には、わからない。

俺は紗江子の手を握った。
ずるくはなったが、素直に言葉にできないのは、変わらない。
暖かく、優しい手だ。
時間にすればほんの数秒だったと思う。
けれど紗江子の手の暖かさが、昔から俺の片隅で固まっていた何かを溶かしていた。

それが何かは、まだわからない。
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