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Ya Ya/SOUTHERN ALL STARS

 ビヤホールの店内は、いつものように混んでいた。
 勤め帰りのサラリーマンがほとんどだ。
 俺のように、旅行鞄を持っているものなどいない。
 「何時に着いたの」
 背後から声がして、振り向くと、そこに彼女が立っていた。
 「5時20分頃かな」
 俺は言って、時計を見た。
 沙織は、テーブルの隙間を抜けて、俺の正面の席に座ると、
 「お肉食べよ、お肉!」
 といってメニューを広げた。
 「えーっと、ビーフカツレツに、タンシチュー、それにローストビーフサラダ・・・・エスカルゴもね!・・・・・・黒生中忘れないで!」
 ウェイターは、にっこり笑ってうなずいた。
 沙織はどんな店でも、初めてきたときから、もう馴染みなのだ。
 「今日は、舌平目がいいですよ」
 ウェイターは言った。
 「それも貰おうか、ね、あ、あと、忘れちゃならないソーセージ!」
 嵐のように注文すると、出てきたビールで乾杯する。
 いつもの儀式だった。

YaYas.jpeg
 「元気だった?」
 「村上春樹読んだ?」
 「陽水のアルバムが出たのよね」
 「こないだおなかが痛くなって病院に行ったのお・・・・」
 矢継ぎ早に、洪水なような言葉の氾濫だ。
 いつものこととはいえ、俺はただ「うん」とか「ああ」とかあいまいな返事を返すだけだった。
 出てきた料理を、ふたりは片っ端からもりもりと食べ始め、約1時間後にはすべてきれいに片づけていた。
 もちろんその間も沙織はしゃべり続けている。
 とにかく食べることに関して、彼女は貪欲だった。
 俺もよく食べる部類であるが、彼女のように長時間食い続けることはできない。
 食べ終わると、ふたりは同時に大きく吐息と息をつき、顔を見合わせて笑った。
 「ちゃんと食べてる?」
 沙織は言った。
 学生時代、俺はよく彼女に食事をおごってもらった。
 金のない俺に、彼女はいつも好きなだけ食わせてくれた。
 当時貧乏学生とOLがつき合えば、だいたいこんなものであったろう。
 男の財布をあてにする、娼婦のような女は素人にはいなかった。
 「ああ、これでも社会人だからね、あのころのカタキをとるように食ってるよ」
 俺は答えて笑った。
 「でも食べ過ぎはダメよ。きちんと運動してね」
 姉のように、また彼女は言った。
 「最近テニスを始めたよ、スキーと一緒にね」
 毎日、毎日テニスコートに通い、週末は早朝からスキーに行き、帰ってくると、またコートに立った。
 それから仲間と呑みにいく、という生活を続けていた。とても体にいいとは思えないが、それを無茶とは思っていなかった。
 8時半の閉店時間になっても、店内は満席だった。
 みな一斉に席を立ち、並んで精算をする。
 「今日は俺がごちそうするよ」
 「大丈夫?」
 といって、沙織は笑った。
 懐かしさがこみ上げる。
 年に一度くらい、アルバイトの金が入ったときに、俺は彼女にごちそうした。
 しかし、見栄を張りすぎて、応援してもらったこともある。
 「もう、借金しても君に出させることはないよ」
 俺は言った。
 「俺は借金ができるんだ!」

 窓の下にみえる早朝の街は、昔とあまり変わらなかった。
 二日酔いの目にはまぶしすぎる朝日が、街を照らしていた。
 持ち込んだワイン3本とボトル2本が、ほとんどからになっていた。
 灰皿は吸い殻で一杯だ。
 夕べは、ほかに3人ほど合流して酒盛りとなった。
 いつの間にか誰かが歌い出し、みんなで合唱した曲が、リフレインのように頭の中でこだまする。
 下手なハモりに大笑いして、呑んだ。

 沙織が、身じろぎして、寝返りを打った。
 俺は彼女の頬にキスして、シャワーに向かった。
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